一本立ち歯舞さんまが朝日新聞の取材を受け、記事が掲載されました。

午前4時を回った花咲港(北海道根室市)。午前7時の一番セリに向け、水揚げされたサンマのコンテナが広いセリ場を埋めていく。
特別扱いの発泡スチロールの箱がこの日は50箱ほど。漁師が船上で1匹ずつ選別し、箱詰めまで終える、名付けて「一本立ち歯舞(はぼまい)さんま」。尾の端を持つと刀のようにピンと立つ。とびきりの鮮度を、魚を包むきめ細かな海氷水が支えている。シャーベット氷とも呼ばれ、指を入れると冷たさが脳天までズンとくる。

H26部会長品定めする魚屋さんは「鮮度がよすぎるくらい」と笑った。「身がしまって硬いから、お客にしばれたサンマじゃないかと疑われる」

一に時期と漁場、二に手当ての仕方。魚のプロたちに魚のおいしさを決める条件をそう教わった。どんな高級魚も季節外れに実力は発揮できない。船にあげるまで長い時間暴れさせたり、温度管理が悪かったりしては台無し。大衆魚でも、旬を逃さずうまく扱えば、大逆転で食べる人を感動させる。

北のサンマは遠い消費地への秋便り。かつては塩サンマ、はらわたは大人の苦みだとやせ我慢。刺し身やすしだねで楽しめるようになったのは、この10年の進化だ。鮮度がいいと、はらわたも甘い。いかに船上から冷やし、遠くまで品質を保って運ぶか。コールドチェーン(低温での輸送網)は、道東の水産物の質と競争力に不可欠だった。

H26一本立ち歯舞さんま特産のナガコンブでヒット商品を生んだ歯舞漁業協同組合は、サンマのブランド化を模索した。2002年のことだ。「本州では無名の自分たちが訴えるのは、船上で味わう青魚のうまさ以外ない。手間が増えるのは覚悟しました」。さんま部会長の小杉和美さん(62)は振り返る。

海氷水の製造機は、釧路市の食品加工機械メーカー「ニッコー」が開発した。佐藤厚社長(69)は、先行メーカーにはない、小さな漁船での使い勝手を優先させた。「資源が先細りするなか、魚をおいしく食べてもらう。理想論で日本の水産は生き残れる」。3年前には歯舞のサンマを実験的に台湾に輸出。刺し身で食べられるほどの鮮度の保持が実証された。小杉さんは「若い漁業者のためにも、仲間と販路を広げたい」。

港の時計は午前8時。漁協事務所の食堂で、ひと仕事終えた職員が朝食をとる。サンマの刺し身がぴかぴか光っている。小皿に好きなだけとって、人気のコンブしょうゆをたっぷり、一味唐辛子をぱらり。脂がのって甘みのあるサンマに、辛みがリズムをつける。くせを感じないゆえの食べ方だ。消費地でもいずれ流行するかもしれない。

■歯舞漁業協同組合H26地図

根室市歯舞4-120

サンマの水揚げは花咲港で行われる。歯舞漁協の直売所では小売りせず、漁協のホームページでネット通販をしている。

http://www.habomai-shop.jp